第14回 オードリー・ヘップバーン
Audrey Hepburn(1929~1993) 女優
華やかさの影に隠された苦しみがより彼女を美しくさせた妖精と呼ばれた女優
オードリーとの出会いはいつであったかと振り返ると、やはり「ローマの休日」だったように思います。テレビで放送された映画を両親と観た少女時代。日本人の中で常にスター女優としてその名をあげられ続けているオードリーは同性からみても憧れの女性。私が彼女の華やかで輝かしい世界のイメージとは裏腹に複雑で悲しい思い出や出来事もあったことを知ったのは、大人になってから。そのオードリーの半生が「オードリー・ヘップバーン物語」としてテレビで放送されたのは、ファンにとっては大変嬉しいことです。
オードリーは英国人の父とオランダ貴族の娘である母との間にベルギーで誕生。両親は彼女が5歳の時に別居し、そのまま離婚。母とオランダに移ったオードリーは叔父と共にここで第2次世界大戦中を過ごします。しかし、その叔父もドイツ軍に殺害され、より一層生活は苦しいものとなったようです。
終戦後、オードリーはバレリーナを夢見てロンドンのバレエスクールに入学するものの、プリマには向かないとの教師の言葉に彼女はバレエを断念。オードリーは身長170㎝。バレリーナになるには少々大きすぎました。夢を断たれたオードリーはモデルやコーラスガールなどの仕事を得て、活躍の場を探します。そして、チャンスは到来。映画の端役をもらった彼女はモナコでの撮影中に一人の女性に声をかけられます。「わたしのジジを見つけたわ」と叫んだその女性こそフランスの女流作家コレットだったのです。彼女はブロードウェイで上演される自分のミュージカル『ジジ』の主演女優を探していたのでした。
以降、オードリーに次々とチャンスが巡ってきます。「ローマの休日」のスクリーンテストの際にテスト終了後もオードリーには秘密にカメラを回していて、その姿を観たワイラー監督が一目でオードリーを気に入ったことは有名なエピソードですね。この映画でオードリーはアカデミー賞も受賞しました。
次の大きな転機は「尼僧物語」の撮影中のことでしょう。この作品で彼女は実在のシスター役を演じています。彼女と出会って、その献身的な生き方にかなり影響を受けたようです。その後、オードリーの活躍の場は映画のみならず、ユニセフや慈善活動に広がっていることをみれば、少なからずオードリーの心を揺り動かしたものがあることは察しがつきます。
結婚は2回。最初はメル・ファーラー。忙しい間を縫うように男の子を出産しますが、この結婚はメルの裏切りにより終わりを告げました。オードリー主演で進めていた「うたかたの恋」、この作品の主演にメルがカトリーヌ・ドヌーブを指名したことで、気まずくなっていた二人の仲が決定的になったのです。
2度目の相手は年下の精神科医アンドレア・マリオ・ドッティ。そして、次男をもうけます。しかし、この結婚も不幸な結果で終わります。ドッティは派手な女性関係があり、それが問題でした。
人生の後半はユニセフの親善大使として精力的に活動したオードリーは、1993年にスイスで亡くなりました。世界中の子供達に愛を注ぐことに、おそらく生きる喜びを見出していたのではないかと思える彼女の後半の人生は、ドラマ「オードリー・ヘップバーン物語」を観た後では、妙に納得してしまう感じがします。
これまで、彼女の出演映画だけでしか見えなかった部分とは全く別の彼女自身の人生が見えてくるからなのでしょうね。彼女が多くの人の心を動かし、愛されるのは、代表作品の素晴らしさだけでなく、人生のあらゆる時期の経験が彼女をより大きな存在にして、そして彼女自身もそれを大いに生かした生き方をしてきたからなのではないでしょうか。愛しつづけることで最終的には世界中の人々に愛されたオードリー。その生き方は簡単そうに見えても決してすんなりいくものではないでしょう。(2001-09-01)
オードリーの半生を描いたドラマ「オードリー・ヘップバーン物語」を観たとき、ヒロインのジェニファー・ラブ・ヒューイットは、なかなか似ていて感心したけれど、やはり違和感があったのは、当人じゃないから似ていないというだけじゃなく、オードリー自身の持つ品などといった持って産まれたもののせいではないかと思った。そして、何より一番違うのは、目の力なのだとこの時、わかったのだ。映画の中で見せるオードリーの目の力。それは彼女自身の意志の強さや心の深さなのだと思う。それは、きっと演技では表現出来ないものなのだろう。映画界では第二のオードリーとかオードリーの再来といった言葉で新進女優の評価をしたりしているけれど、それだけ目標としている女優も多いのだろうし、映画界も彼女のようなスターを待ち望んでいるのだろう。こんな女優はなかなかいないですね。久しぶりにまたオードリーの映画が観たくなってきました。
おもな出演作品
1951年 「初恋」
1951年 「オードリー・ヘップバーンの モンテカルロへ行こう」
1953年 「ローマの休日」
1954年 「麗しのサブリナ」
1956年 「戦争と平和」
1957年 「昼下りの情事」
1957年 「パリの恋人」
1957年 「マイヤーリング」
1959年 「緑の館 」
1959年 「尼僧物語 」
1959年 「許されざる者」
1961年 「ティファニーで朝食を」
1961年 「噂の二人」
1963年 「シャレード」
1963年 「パリで一緒に」
1964年 「マイ・フェア・レディ」
1966年 「おしゃれ泥棒」
1967年 「いつも2人で」
1967年 「暗くなるまで待って」
1976年 「ロビンとマリアン 」
1979年 「華麗なる相続人」
1989年 「オールウェイズ」