第16回 ジャンヌ・アントワネット・ポワソン/ポンパドゥール夫人
Marquise de pompadour(1721~1764)
ルイ15世の愛妾。ロココ朝の華であり光と影を知る女性
歴史上、ポンパドゥール夫人として知られる女性。彼女はフランスの王ルイ15世を最も長く独占した愛妾です。中学生だった私は、まだよく歴史を知らないのに、彼女の絵に憧れ、下敷きにこっそり入れていました。深い緑色のドレスに華やかに散らされたピンクのバラの花飾り。少女漫画に出てくる貴婦人達が着ている豪華な飾りのドレスはどれも素敵でしたが、この絵のドレスはそれ以上に私には魅力的でした。彼女が好んで使っていたピンクはポンパドゥール・ピンクとして知られています。
ポンパドゥール夫人となる前の彼女の本名はジャンヌ・アントワネット・ポワソンといい、パリの商人の娘に産まれました。母親はパリでも有名な美人で、それを引き継いだジャンヌも評判の美少女だったということです。少女時代を全寮制の修道院で過ごしたジャンヌは19歳になってル・ノルマン・ド・トゥルネームの甥ル・ノルマン・デティオールと結婚します。この結婚にはトゥルネームが自分の莫大な財産をジャネットに相続させるという条件付でした。
そのジャンヌがルイ15世と出会ったのはセナールの森。ルイ15世が狩りに頻繁に訪れ、噂に聞く美人に会いたいと思うようになり、またジャンヌも王の目に留まることを期待して手を尽くします。そんな折の王の愛妾シャトールー公妃の急死。
1745年以降、ジャンヌはルイ15世のもとにいるようになります。王は彼女を公認の愛妾にし、夫デティオールと離婚させ、ポンパドゥール侯爵領を与えて、以後ジャンヌはポンパドゥール侯爵夫人(後に公爵夫人)と呼ばれるようになるのです。彼女はその美と豊かな教養や知性で王を虜にしたのでした。
しかし、事実上の愛人であったのは30歳前くらいまでと言われています。ジャンヌは元々病弱で、また性に関しては淡白だったらしく、非常に精力的だったルイ15 世との夜の生活にはなかなか無理があったようです。ルイ15世は美男子でしたが、その生い立ちゆえなのか、メランコリックで気紛れという性格。彼女は自分の教養や知性や技術を駆使するだけでは駄目と感じたのでしょう。
そこで、王好みの若い女性を集め、お相手をさせる「鹿の苑」と名づけた女の苑をヴェルサイユの一角に作ります。そして、王の相談相手となったジャンヌは政治的にも発言権を持ち、かなりその手腕も発揮したようです。まあ歴史をひも解く時、こうしたことはどこの国にでもあることですが……。
ジャンヌの功績の中で特筆すべき点は、文化・芸術での面ではないでしょうか。当時のファッション・リーダーでもあった彼女はその名のついたポンパドゥール・スタイルを確立させたり、また、「百科全書」の刊行を支援していました。セーヴル陶器は「国王の青」と「ポンパドゥールピンク」で有名ですが、もちろん、その保護者でもあったのです。建築や室内装飾、絵画、料理に至るまで、ロココ芸術の原点を作ったともとも言える人物とは言えないでしょうか。
彼女は36歳で病床につき、43歳でこの世を去りました。43年の人生は現代では短いと言えるでしょう。彼女の波乱に富んだ人生を振り返ると、大いに楽しみもあった反面、同じくらい暗く陰湿な部分もあったのではないかと思えてきます。華やかな世界に隠された影の世界は、おそらく常人の考えも及ばぬ苦しい面を持っていたことでしょうから、その人生の密度の濃さを考えずにいられません。
そして、私が気になったのは、元夫との間に生まれたという女の子のその後の人生はどうだったのか、と言うこと。今回、調べた限りではジャンヌの母親としての面を垣間見ることは出来ませんでした。それでも、一児の母であったことは事実。母娘の秘めたる胸の内、もしかしたら、そこにポンパドゥール夫人と呼ばれたジャンヌの本心があったのかも? と思ったりしてしまうのは、私が女であり、母となったせいでしょうか?(2001-12-10)
ポンパドゥール夫人ポンパドゥール夫人が登場する映画は、私が探したところ、ジェラール・フィリップ主演、クリスチャン・ジャック監督のの「花咲ける騎士道」(原題 Fanfan la Tulipe 1952年)しか見つけられなかった。演じているのはジュヌビエーブ・パージュという女優で、この人は他に「昼顔」や「うたかたの恋」、「シャーロックホームズの冒険」など日本でも馴染みの映画にも出ているらしい。この映画を観ていない私には情報でしかないけど、「花咲ける騎士道」のお話は面白そう。フィリップ演じるファンファンは兵隊になり、戦争に赴き、そこで助けた王女に恋仲になり…と冒険と恋のストーリー。この映画が当たったフィリップはその後、この役名のファンファンの愛称で親しまれたとのこと。また、今はおじさまとなってしまった岡田真澄。その若かりし頃のハンサムボーイだった時の愛称もファンファン。それはこフィリップにあやかっているのだそう。「花咲ける騎士道」はビデオ、DVDともに発売されている模様。レンタル店でも見つかるかもしれない。
2004/08/04追記:2003年にはヴァンサン・ペレーズ主演、相手役にペネロペ・クルスでリメイクが作られ、日本でも2004年に公開されたこの作品。監督は、「WASABI」を撮ったジェラール・クラヴビッツ。こちらでは、ポンパドゥール夫人役はエレーヌ・ドゥ・フジュロール(「ザ・ビーチ」にも出演していたよう)が演じている。