南部の風~南軍兵士の妻が語る100年の物語
Oldest Living Confederate Widow Tells All (1994年)オーストラリア
監督:ケン・キャメロン 原作:アラン・ガーガヌス
出演:ダイアン・レイン(ルーシー・マースデン役)、ドナルド・サザーランド(ウィリアム・マースデン大尉役)、シシリー・タイソン(カスタリア役)、ブライス・ダナー(ビアンカ=ルーシーの母役)、アン・バンクロフト(晩年のルーシー役)、E・G・マーシャル(トオ教授)
このドラマについて
南北戦争に13歳で従軍したマースデン大尉と結婚した若いルーシー。老人ホームに入居している100歳手前の彼女が語る人生のお話。
ルーシーの母親ビアンカは上流階級の娘だが、夫サミュエルは貧乏青年。ビアンカは相応の青年からのプロポーズも多くあったが、二人は大恋愛の末に結婚したのだ。父と大の仲良しのルーシーは”お嬢さま”らしからぬ言動で友人たちから嫌われているが、自分を変えるような娘ではない。市長主催のパーティーで一気にマースデン大尉と親しくなったルーシーは、結婚の意味もよくわからずに結婚してしまう。大尉の家では黒人のメイド、カリスタがすべてを仕切っていた。その日から始まる未知の生活の中でルーシーは、懸命に生きていく。今まで知ることのなかった黒人の世界、出産、家計の心配、そして、ずっと戦争の傷から逃れられない大尉との暮らし。それが、次第に家族の日々にも影を落としていくことになる。
感想
何と言っても二人の年の差に驚く。大尉はルーシーよりも35歳も年上なのだ。昔はそういう結婚もあったのだろうが、今ではとても考えにくい。少女は年上の男性に憧れはするけれど、現実とは別なことにやがて気が付く。ルーシーはその前に結婚してしまったのかもしれないけど。でも、いくら資産と名声のある男とは言え、初潮を迎えたばかりで夫婦生活のことも家事のことも何も知らない少女と結婚するなんて、大尉の行動は今なら犯罪行為に近いんじゃないのか? と一瞬思ってしまった。結婚を最終的に許したルーシーの両親にも理解できるとは私にはいい難い。やはり、「愛さえあれば年の差なんて」ということなのか?
いずれにしろ、ルーシーは多くの困難にぶつかりながら、その度に彼女なりの持ち前のファイトで切り抜けていくが、残念ながら私自身は彼女に共感することが出来なかった。第一に大尉には何の魅力も感じないし、こうしたケースの結婚なんて私には考えられない。それは年の差のことだけではなく、家庭の状況も、戦争の時に自分のせいで親友を失ったという負い目を持って生き続けている彼の心の傷のことも含めてということ。
「そうした苦しみから守ってあげる」とルーシーは言うけれど、私にはその気持ちもわからない。いや、「守ってあげたい」という気持ちはわかるが、「守ってあげる」あるいは「救ってあげる」ことは出来ないと私は思っている。それは、とても純粋な時期にさほど恋愛体験らしい恋愛もせずに結婚したルーシーだからこその言葉かもしれない。だって、おそらく、結婚は遅くなればなるほど相手に望む条件の数は減るけれど、確実に譲れないものだけが残っていくから、そこに関しては自分を曲げることが出来ない。
当然、先に夫を失うことになったルーシーは、その後の人生を大尉の苦しみまで背負って生きることになってしまう。「彼を救えなかった」と悔やむ年老いたルーシー。彼に深い愛を抱いていたにしろ、人は他人を救えるものなのか? と思う。
戦争の傷の苦しみは大尉のものであってルーシーのものではない。その話を毎日聞かされたルーシーは疑似体験のようなものをしたかもしれないけれど、大尉の背負ったものをルーシーが肩代わりすることは出来ないはずだ。その苦しみは大尉自身が乗り越えなくてはならないハードル。それを手助けしてあげることは出来ても変わってあげることは無理。水におぼれている人を助けるように救い上げることは出来ない。
そういった点ではルーシーは十分に大尉に尽くしたし助けたとも言えるんじゃないのか? だからそんなに自分を責めなくてもいいにと私は感じてしまったのだ。私なら逃げ出すような大尉との生活に添い遂げたあたり、やはり夫婦には夫婦にしかわからないものがあると、よく世間で言う言葉どおりなのかしら? とも思った。
100歳の誕生日を迎え、パーティーの席でスピーチするルーシーの言葉には「子供達がいたから頑張れた。子供が一番の宝」とある。それが彼女の救いだったのかもしれない。(2002-1-26)
出演者データ
- ダイアン・レイン(ルーシー・マースデン)
Diane Lane 「南部の風」では14歳から61歳までを演じているが、「パーフェクト・ストーム」の時も思ったようにとても若々しい! この時30前という年齢をものともせず、女学生を演じてみせる初々しさにうなってしまった。これからも期待したい女優です。 - ドナルド・サザーランド(マースデン大尉)
Donald Sutherland カナダ生まれ。ドナルド・サザーランドと言えば、「M★A★S★H」が有名。かなり個性的な俳優で善玉・悪玉OKの人。主役級のものは少ないけど、強烈な個性を残す名バイプレイヤー。出演作は有名なものがたくさんあり。キーファー・サザーランドは息子。そっくりなので、聞かなくてもわかりますね。
ここでは、ルーシーと結婚するマースデン大尉。ふさふさの髪に口髭、顎鬚をたくわえて、立派な軍人姿で登場。勇姿を語りつつも、13歳で経験した戦争の傷が癒されない少年のような大人だった。出演作品は、「M★A★S★H」、「イナゴの日」、「鷲は舞い降りた」、「SF/ボディ・スナチャー」、「普通の人々」、「針の眼」、「キャッシュマン」、「白く渇いた季節」、「バックドラフト」、「JFK」、「洛陽」、「ディスクロージャー」、「アウトブレイク」、「評決の時」、「ザ・ターゲット」、「悪魔を憐れむ歌」、「スペース・カウボーイ」他。 - シシリー・タイソン(カスタリア)
Cicely Tyson - ブライス・ダナー(ビアンカ=ルーシーの母)
Blythe Danner 舞台、テレビで活躍。グウィネス・パルトローの人気で日本でもその名が知られるようになったと思う。70年に監督のブルース・パルトローと結婚。出演作品は、「愛の七日間」、「ミセター&ミセス・ブリッジス」、「マッド・シティ」、「妻たち、夫たち」「X-ファイル・ザ・ムービー」、「ミート・ザ・ペアレンツ」他。 - アン・バンクロフト(晩年のルーシー)
Anne Bancroft アクターズ・スタジオなどで学び、52年に「ノックは無用」で映画デビュー。その後、彼女の代表作と言える「奇跡の人」と出会う。この作品で彼女は舞台ではトニー賞、NY演劇批評家賞を、映画化された後はアカデミー主演女優賞を受賞。数々の有名な作品に出演し活躍している。出演作品は、「卒業」、「愛と喝采の日々」、「エレファンと・マン」、「トーチソング・トリロジー」、「アサシン」、「心のままに」、「冷たい月を抱く女」、「キルトに綴る愛」、「ホーム・フォー・ザ・ホリディ」、「心の指紋」、「G.I.ジェーン」、「大いなる遺産」他。 - E・G・マーシャル(トオ教授)
E.G. Marshall あ、この人、見たことあると思う俳優。テレビでもたくさん活躍しているよう。近年では「シカゴ・ホープ」での医師役が印象的だった。