私の中のあなた
MY SISTER’S KEEPER 2009年 アメリカ作品
監督:ニック・カサヴェテス
出演:キャメロン・ディアス(サラ・フィッツジェラルド役)、アビゲイル・ブレスリン(アナ・フィッツジェラルド役)、アレック・ボールドウィン(キャンベル・アレグザンダー役)、ジェイソン・パトリック(ブライアン・フィッツジェラルド役)、ソフィア・ヴァジリーヴァ(ケイト・フィッツジェラルド役)、ジョーン・キューザック(デ・サルヴォ判事役)、トーマス・デッカー(テイラー・アンブローズ役)、ヘザー・ウォールクィスト(ケリーおばさん役)、エヴァン・エリングソン(ジェシー・フィッツジェラルド役)、デヴィッド・ソーントン(ドクター・チャンス役)
原作:ジョディーピコー
白血病の姉のドナーになるべく生まれた次女が、「姉のドナーにはなりたくない」と両親を訴えた、というかなり衝撃的な内容を想像させる予告で公開されたこの映画、観てみたら思っていたものと違う内容だった。
長女が生まれて長生きはできない白血病だと医師から告げられ、何とか長女を生かすために両親が取った行動は、彼女を救うために必要なドナーとなる子供を作ること。そして次女が生まれた。次女は生まれてからずっと長女のために痛く辛い手術や病院通いを強いられてきた。そしてそれに反抗することもなく協力してきた。
かなり非常識な設定だ。私には理解できない。次女がそんな人道に反するとも取れる行為を今後も続けるなら、自分の命を守るために訴える、という話だと思っていたのだが、本当の内容はそんな両親に姉の寿命、与えられた人生を自分なりに全うしたいという姉の気持ちを伝えるために姉妹がとった辛い行動であったことが徐々にわかる。姉のその気持ちは当然だし、大好きな姉にその希望を叶えさせたい妹の気持ちも十分に理解できる。というか、私自身はそこに偉く共感してしまった。その妹の健気な気持ちと行動に。
この両親フィッツジェラルド夫妻は生活のすべてが長女ケイト中心である。ドナー役の次女のアナも、存在薄いケイトの兄である長男のジェシーも眼中にない。特に母親のサラはケイトの命を1日でも延ばし、生きる可能性を見いだすことに全神経、いや全人生を賭けているように見える。父親のブライアンはサラに協力しつつ、でもやや消極的。だが、だからと言って他の二人の子供アナとジェシーに対し、何か行動を起こすでもなし、サラの母親としての態度に対し注意を促すでもなく頼りない。ジェシー同様にこの家庭において存在の薄い人物だ。まるでサラとケイトのために他の家族が存在しているようにさえ見える。
幸い私の子供は病気ではないので、完全に理解できるとは言えないが、母親である私は多分サラの気持ちは少しはわかる。だが、と思うのだ。私個人はケイトやアナの気持ちの方に共感できる。ケイトは辛い療養生活、治療を繰り返す日々の中で、おそらく命の意味や自分の人生の限界を知り、理解し、そして悟っている。同様に苦しい人生を強いられてきたアナもケイトの気持ちを十分すぎるほど感じている。
気付いていない、知ろうとしていないのは、何としてもケイトを救いたい母親サラだけなのだ。多分、父親ブライアンも何となく気付いている。しかし必死の妻サラに何も言えない。ただ従うだけ。いや、娘を救いたいのは自分も同じと思って目を背けている。そして、傍観者であろうとしている、そうするしかない長男のジェシーは孤独だ。家族なのにこの家庭の中には彼の椅子はない。
親がきっと我が子を先に見送ることになるのは想像も出来ないくらい辛いことだろう。波乱の人生ではない私でも、子供と死別した両親、先に子供を見送ることになってしまった家庭の姿を身近で見た経験はある。母親のうちひしがれた姿は言葉では言い表せないくらい悲しい。だから、サラの狂気にも近い必死な姿もきっと心の中の葛藤なんだろうとも思う。
それでも、救いはあるよ、とサラに言いたい。子供達はみんな信じられないくらいいい子達ばかり(ジェシーなんて、本当ならグレてもおかしくないくらいだ)で、ケイトも死ぬ前に素敵な経験が出来た。そして、アナとジェシーがいる。二人のためにまた素敵なお母さんになってあげて、それがケイトの望みでもあったんじゃないかと。ラストはそんなことを考えさせるさわやかな終わり方。内容は重いけど、そこがこの映画の救われる所だろう。
ケイトとアナを演じた二人の若い女優達ソフィア・ヴァジリーヴァ(「ミディアム霊能者アリソン・デュボア」のアリエルとは全然別の役柄にぴっくり)とアビゲイル・ブレスリンの素晴らしい演技がこの映画を盛り上げているのは当然なのだが、夫妻を演じたキャメロン・ディアスとジェイソン・パトリックは合ってなかったかな? と私は感じてしまった。ディアスは母親役もやっていい年齢ではあると思うのだが、どうもそういうイメージのない女優。この夫妻の役を別の俳優が演じたら、またちょっと違う印象だったかも。
追記:映画は原作とは少し違うようですね。私は未読なので、本の方の感想は書けませんが、読んでみたい作品です。原作ではジェシーはやはりグレるようです。まあ、当然ですよね。(2013/12/19)