プライドと偏見
PRIDE & PREJUDICE 2005年 英
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ(エリザベス・ベネット役)、マシュー・マクファディン(ミスタ・ダーシー役)、ドナルド・サザーランド(ミスタ・ベネット役)、ブレンダ・ブレッシン(ミセス・ベネット役)、ジュディ・デンチ(レディキャサリン役)、ロザムンド・パイク(ジェイン・ベネット役)、サイモン・ウッズ(ミスタ・ビングリー役)、ジェナ・マローン(リディア・ベネット役)、トム・ホランダー(ミスタ・コリンズ役)、キャリーマリガン(キティ・ベネット役)、タルラ・ライリー(メアリ・ベネット役)、クローディ・ブレイクリー(シャーロット・ルーカス役)、ケリー・ライリー(キャロライン・ビングリー役)、ルパート・フレンド(ミスタ・ウィッカム役)
原作:ジェイン・オースチン
「高慢と偏見」が映画化されると聞いて以来、ずっと観たいと思っていたのだが、ついに2006年1月に日本でも公開された。私の感想の結果から言うと、映画版としては、なかなかよい出来ではないかと思う。1940年にグリア・ガーソンのリジー、ローレンス・オリビエのダーシーで映画は作れており、大変よく出来ているということだが、95年に作られたドラマ版「高慢と偏見」が私のイメージ通りのものだったので、やっぱり、どうあってもこれを超えることはない、というのが私の本当のところ。それは承知の上で観に行った「プライドと偏見」であるが、心配していてたダーシー役も、コリン・ファースにはかなわずとも(少なくとも私にとって)全く心配するものではなかったと思う。
そして、この作品のポイントとなる役は絶対にヒロインのリジーだと思うのだが、キーラ・ナイトレイのリジー役もよかったと思う。映画の方では、現代的な感じのする女性になってはいたが(髪型もドラマの方と違って、現代に近いので、そういった印象を与えると思う)、年齢的にも原作と近く無理がなかったし、表情も素晴らしかった。ベネット姉妹達もビングリーやウィッカム、コリンズ、ミス・ビングリー、ジョージアナ、シャーロットといった若手のバランスもよかったと思う。
何より、脇を固めるミスタ&ミセス・ベネット役のドナルド・サザーランド、ブレンダ・ブレッシン、キャサリン夫人役のジュディ・デンチが本当に貫禄を見せ付けてくれた。若手はのびのびとしていて、ベテランはその上手さを十分に堪能させてくれた感じ。サザーランドは、やっぱり上手いんだなあ、と実感(個人的には息子のキーファーの方が好きなんですが、映画でドナルドの第一声を聞いて声がそっくり~、顔だけじゃなく声までも瓜二つ、なんて密かに思ったりしてしまったのであった)。やや強面の彼はドラマ版でベネットを演じたベンジャミン・ホイットローとは違う印象ではあるが、それぞれがちゃんと” ミスタ・ベネット”になっているあたりはスゴイ。それは、ミセス・ベネット役についても同様。父親の娘への愛情、母親の娘への愛情が、実にうまく描かれている点もドラマ版と比べても見劣りしていない。
でも、今回一番、私の目をひいたのは、ミスタ・コリンズ役のトム・ホランダー。コリンズは悪い人ではなく生真面目だけど、ちょっと間抜けな感じのする人。映画ではドラマでのコリンズ(少しおおげさにデフォルメされていた感じはする。そこが観る側からすると笑いを誘うものでもあるけれど、現実にはここまでの人はいないんじゃないか? とも思う)とは少し違うコリンズだったが、逆にそれが「こういう人っているよね、悪い人じゃないんだけどね。友達ならいいけど、パートナーにはちょっとね」と女性が思うような親しみを感じさせる人物になっていて、ホランダーはその雰囲気を巧みに醸し出していたように思う。それが、リジーの親友シャーロットの彼との結婚を決断させた要因に結びつくのではないか、と考えさせる伏線になっているんじゃないかなあ、などと私は感じてしまったのだ。
映画の中では、思いにふけるリジーのもとにシャーロットは告げに来る。彼女はリジーが「何故、親友のシャーロットがあんな退屈な男性と結婚することにしたのか?」と不思議に思っていることは百も承知だ。だが、自分の決断を親友には知っていて欲しい。半分泣きそうな顔つきでシャーロットは言う。「私はもう 27。両親にも迷惑はかけたくない」。ドラマの中ではこう言うシーンはなく、ただ自分には釣り合った結婚であり、平和な家庭が欲しいだけ、とシャーロットは話す。けれど、映画の中でストレートに言っていたように、静かな台詞に中にはこの気持ちが込められてもいたのではないだろうか?
当時の27歳はおそらくハイミスということになるだろう。想像するに現在の30歳は越えた印象ではないかと思う。リジーの親友ならば、結婚がすべてではないことはシャーロットだって、わかっていたはず。だが、現実はどうなのか? ハンサムでお金持ちの男性と結婚したい、それはいつの世もどんな女性も一度は願う夢だ。自分を迎えに来る白馬の王子様はいると信じたい。昔も今も同じ問題であり、普遍のテーマだろう。でも、みんな自分の現実と照らし合わせて、身の丈にあった場所を選ぶものだ。
私は大富豪で美男子のダーシーと結婚したリジーと牧師で平凡なコリンズと結婚したシャーロットのどちらが幸せか、あるいはベネット姉妹の中で誰が一番ラッキーだったのかを問うつもりはない。それは、とてもナンセンスなことだし、どちらにしてもその価値観を否定するものになってしまう。どっちがいいのか、勝ったのか、誰が一番幸せかは、私はそれほど重要なことではないのだと思う。
誰もが自分らしくあることの難しさを抱え、葛藤し、悩んで、失敗し、泣いて、そして学び、教訓として、身を戒める。自らが傷ついたとき、人の優しさを知り、また自分も人に優しく出来るというのは、おそらく本当なのだろう。オースチンが描く世界は、結婚と言う誰もが一度は直面し、考える身近な事柄を通して人の普遍のテーマを見せてくれる。彼女が言っていた「小説を書くには、2~3の家族があれば十分」という言葉が真実味をもって迫ってくるような気がした映画であった。
さて、映画自体の感想とは離れてしまったが、ドラマ版が大のお気に入りの私にとって今回の映画は全体的にはちょっとドラマを意識しているのかな? と感じられる点は多々あったのですが(2時間強なので、当然ストーリーは、はしょってある)、映画ならではのロケーションは本当に素晴らしかった。立派なお屋敷もそうですが、あの緑あふれる田園風景、そしてイギリスの荒涼たる感じが広がる荒野。これは、まさくし、オールロケでなければ出し切れませんね! 舞踏会のシーン、雨の中でのダーシーの告白、ラストシーンの朝もやの中での再会、どの場面でもロケならではの(苦労も多かったろうと察する)美しさ! こうした時代物のロケが出来ることに同時に感激してしまった作品でもありました。日本の時代劇じゃ、こうはいかないですものね。(2006/03/04)