ディープエンド・オブ・オーシャン
The Deep End of the Ocean 1999年 アメリカ作品
監督:ウール・グロスバード
出演:ミシェル・ファイファー(ベス役)、トリート・ウィリアムス(パット役)
ジョナサン・ジャクソン(ヴィンセント16歳役)、ウーピー・ゴールドバーグ(キャンディ役)、コリー・バック(ヴィンセント・カッパドーラ7歳役)、ライアン・メリマン(サム・カラス役)、ジョン・カペロス(ジョージ・カラス役)
自分の同窓会の会場で連れてきた息子の2人のうちの下の子を誘拐されたベス。その日から家族に苦しみの日々が始まる。突然、息子を失った夫婦は? 弟を失った兄と両親の関係は?
平穏を装って生きていた家族の前に見つかった弟は9年ぶりに家に戻ってきた。捜し続けていた母親ベスには失われた時間と共に幸せが舞い降りたような気持ちに感じるが、家の中のギクシャク度は解消されない。9年の歳月はやはり誰の中でも「あの時」のままではないのだ。そう願っていても立ち止まりつづけることは出来ない。家族の中で母親であるベスだけが、その事実を認められずにいることが見ていてわかる。
私は女であり、そして今母になった立場からベスの気持ちはわかるような気がする。「お前がちゃんとしていないから誘拐された」と責めた夫。「弟を見ていて。絶対、手を離しちゃ駄目」と母に言われたのに手を離してしまった、そのことに自責の念にかられ、自らの殻に閉じこもる長男。失った次男を見つけることが問題の解決になるとベスが思う気持ちは、きっと同じ状況にならなくても安易に想像できる。だが、残された夫と長男は?
一方で誘拐された弟の方は、当時のことを忘れて養父母との幸せな生活を送っていたのだから、やりきれない。とても難しいテーマだ。養母は途中で死亡するが、養父は実の子のように大事に育ててきた。2人の間には本物の親子の情もある。誰も責められない状況がより苦しくさせている。再会した兄と弟も戸惑いは隠せない。
女性にありがちなベスの対応が、わかる気がすると思いつつ、同時に外側から見ているこちらにとっては、それじゃ駄目と言いたくなってしまう。戻ってきた息子に赤ちゃんのときの服を見せたりするあたりも、母としては泣かせるなあと感じるけど、子供の方は困るだけじゃないのか? などと思ってしまうのだ。やはり他人事だからか?
この話は「家族」がテーマ。それぞれ立場が違い、それぞれ思いも違う。息子側も同じ。それによって感じ方も違うと思う。こうした作品をみるにつけ、今思うのは、自分が結婚して母親になったからこそ見えることもあるのだろうということ。人生はいつも片側からしか見えない、見ていない。地球から見ている月と同じじゃないのか、と思うこと。
ラストはみんなが新たな旅立ちを感じさせるものになっている明るい未来が想像でき、テーマの割には重くならず終わっている。失われた時間を埋めるのもまた時間であるかのごとく。(2004/02/04)