ジャンヌ・ダルク
The Messenger: The Story of Joan of Arc 1999年 フランス作品
監督:リュック・ベッソン
出演:ミラ・ジョボビッチ(ジャンヌ役)、ジョン・マルコビッチ(シャルル7世役)、ダスティン・ホフマン(ジャンヌの良心役)、フェイ・ダナウェイ(ヨランド役)、パスカル・グレゴリー(アランソン公役)、ヴァンサン・カッセル(ジル・ド・レ役)、チェッキー・カリョ(デュノワ伯役)
史実の女性ジャンヌ・ダルクは何度か映画化されている。私は観たのはこれがはじめて。彼女はフランスを救った聖女として知られていて、バーグマンが演じた作品もあるせいか、 清らかで正しくて純粋で真っ直ぐ、といったイメージがある。
だが、リュック・ベッソンが撮ったこのジャンヌは、そのイメージを覆すものだった。後世の研究により、神の声を聞き、それに従った敬虔な信者であるジャンヌは、実はノイローゼだったのではないか? という説も出てきており、べッソンはその説を取り入れたジャンヌにしたようだ。とにかく観ていて多くのシーンが、まるで狂信的なヒステリー女のように見える(少なくとも私には)。
少女の頃の「英国軍が村にやって来て姉を殺された」という経験がトラウマになっているという背景をその原因にしたいのか、ミラのジャンヌはまさに鬼気迫る勢いの力強さと意志、その反面の情緒不安定ぎみな感情的で弱弱しい精神、更に神を信じるというゆるぎない信仰心とその神の御心通りになっていないことへの怒りや憤り、どうにもならない事態へのもどかしさややりきれなさが、混ぜこぜになっていて、これまでの非人間的なジャンヌではなく生身の人間である様子が強調されている。それらの混在する自分自身を収拾できなくなっている女性というふうにも見えてくるのだ。
清らかで正しくて純粋で真っ直ぐという伝説の聖なる少女が、否定されているわけではない。ここでのジャンヌにもその言葉は当てはまる。ただ、実に人間くさい部分を前面に押し出したことで、時代に翻弄された女性の人生の悲劇というものが垣間見えた。歴史ではよく、「英雄が時代を作るのか、それとも時代が英雄を作るのか」と言われるが、やはり私は時代が英雄を生み出すという考えに共感してしまう。今回の映画でまたそれを実感した。
ジャンヌを演じるミラはまだ若い女優という印象があるが、脇を固める俳優陣は彼女を助けている感じが映画同様に感じられる。ちょっとダスティン・ホフマンの役の存在の意味が私には「?」ではあったけど、以前から注目されていたヴァンサン・カッセル(ジル・ド・レ役)が非常に印象的だった。(2002/06/12)