2019年9月公開のチェック映画
ヒンディー・ミディアム (HINDI MEDIUM)
2017年 インド作品 日本公開2019年9月6日
夏休みは終わりましたが、まだまだ暑いですね。台風シーズンも到来し、少しずつ秋に近づいているのでしょうけど、この厳しい残暑に新学期、夏休み明けの仕事と疲れは取れずにいる人も多いのではないでしょうか。
さわやかな作品でも観たくなるのですが、今月は個人的にはすでに公開した西部劇「荒野の誓い」(しかもクリスチャン・ベイル主演! 話題のイケメン俳優ティモシー・シャラメも上等兵役で出演)が観たかったりするのですが、今回はインド映画の「ヒンディー・ミディアム」を選んでみました。
話題作というと、20日に公開するブラピとトミー・リー・ジョーンズが親子役で共演した「アド・アストラ」は興味深い。想像もしなかったこの共演はどんなものなのか、宇宙という舞台でどんな親子劇が展開するのか、と気になりますよね。
27日に公開するフランス・ベルギー作品の「パリに見出されたピアニスト」も実に私好みの作品のよう。出演もランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、そしてピアノの才能を見出される青年にジュール・ベンシェトリ(祖父は俳優のジャン=ルイ・トランティニャン、お母さんは、当サイトでも紹介の「ポネット」でママ役だったマリー・トランティニャン)。埋もれてしまうかもしれない才能を見出し、この世に残すこと。簡単なようで難しい、そしてこれまでの歴史の中でも数多く埋もれたままで人生を終えた人たちもいたであろう事象、それは、その人自身も、また人類にも損失であったろうこと。それがある人には再生であり、ある人には生きるということであり、多くの人には芸術や科学という形で生活の一部になっている。それを再認識できるこうした作品は派手ではないけど、しんみりと心に滲みてくる秋にはベストな作品かも、と思います。
そして、「ホテル・ムンバイ」。2008年に起こったムンバイでのイスラム武装勢力による同時多発テロの現場の一つとなった有名ホテルのこの事件を描いた作品。ホテル内の状況を描いた映画とのことですが、主人公のホテルマンにデブ・バテル(「スラムドッグ$ミリオネア」、「奇跡がくれた数式」、「LION/ライオン~25年目のただいま~」)、アメリカ人観光客にアーミー・ハマーと日本でも知られた俳優たちの出演でリアルに描かれており、そういった点では観てみようかなと思いやすいですよね。テロは、もはや平和と言われる日本でさえももう他人事ではありません。明日、自分が巻きこまれても不思議ではない21世紀となっています。過去の事件を扱った作品だという気持ちだけで観ることができるでしょうか。
と、さまざまな視点で観たい作品が今月はありますが、ちょっぴり、ニヤリとできそうな「ヒンディー・ミディアム」をやはり選んでみました。ニヤリのほかに、あるあるや、恥ずかしくて赤くなる思いもありそうなこの作品。子供の将来を思い、有名校に入学させるためにできることは何でもする意気込みの中流階級の夫婦の様子を描いたお受験映画。過激なお受験戦争は、日本のドラマや映画でも描かれていたりはしますが、海外は日本以上に階級社会と聞きます。自分のクラスを出るのはそう簡単ではない。
中流階級のラージとミータ夫婦が、娘の有名校入学のための受験に挑み、上流階級の地域に引っ越したり、受験に失敗した後は、特別枠のために今度は低所得者層の住宅街に移ったり、と既に公開されたあらすじだけでも笑える話。でも、本当にこの夫婦はお馬鹿さん、と笑える夫婦が何人いるんだろう?、とも思います。既に「受験」戦争を終えた我が家では、純粋に映画として観ることが出来そうだけど、でも決してこの二人を馬鹿な人たちと笑えない気もします。
今、「受験」の頃を思い返すと、親となってからの受験は、子供の将来を見据えた学校選びの「受験」だけど、親にとっても「受験」だったかも、と思います。学校の試験を受けるのは我が子、そして親は「世間」という社会の試験を受けたんじゃなかろうか、と。子供が受けた入学の合否はその年度内に出るけれど、親が受けた試験の合否はずっと、ずっーと後でないとわからない。自分が死ぬ時でもわからないかもしれない。ふと、そんなことを思ってしまった瞬間、ラージとミータ夫婦が最後にどんな選択をしたのか、子供の受験で何を得たのか、知りたくなったのでした。(2019/09/07)