2021年3月公開のチェック映画

旅立つ息子へ HERE WE ARE 2020年
イスラエル・イタリア作品 日本公開日2021年3月26日


今月は3月公開のチェック映画。この26日は、ベネチア国際映画祭金獅子賞やゴールデン・グローブ賞の最優秀作品賞(ドラマ)も受賞し、話題となっている「ノマドランド」が公開します。夫を亡くし、60代で車上生活者として各地を渡り歩きながら働く老後を選んだ女性の人生、当サイトの趣旨から言って興味深い映画ではあるのですが、「旅立つ息子へ」を選びました。

イスラエル・イタリア作品、とこれまでの管理人ですと選ばない映画でもあるのですが、予告編を観てやはり、これ、と感じてしまったというのが本当のところです。観ようと思う映画は私の中では多分その時の自分の状況や感情がとても左右していて、多分、これから旅立つ息子を持つ母親としての気持ちがこの作品を選んでしまったのかもしれません。

主人公の青年は障害があり、離婚した父親が一人で育ててきました。父と息子、小さい頃はきっと大変でも楽しく過ごしていたのでしょうが、老いた父親は大人となった息子を施設に入れる状況に陥ります。しかし、嫌がった息子の様子を見て二人の生活を続けようと決意。逃げ出す旅に出てしまうロードムービーのようです。

別れた妻は、「あなたが死んだらどうする?」といい、弟は「兄さんはひとりで全部背負い込んでいる、みんな助けたいのに」と諭す。その通りよね、と感じつつ、息子を心配で手放せない複雑な父親の気持ちもわかるような気がしてきます。息子は障害があるだけに、親の心配は他の人達以上でしょう。ひとりになって生きていけるのか? あれやこれやは大丈夫か? と止めどもなく不安や心配は溢れてくる。

でも、それは健常者の親だって同じ。この映画は障害を持つ青年とその親の話ではあるけれど、障害の有無にかかわらず、親子の話であることに変わりはない。あの小さかった、いつも手を握ってきた子供は、どんなに頼りなく心配に見えても大人になっていつかは家を出ていく。自分の家を見つけるために、自分の人生を自分らしく歩くために。

わかっていてもその瞬間が来ると素直になれない、来たことを認めたくない、それがきっと親の気持ち。なんて思うと、やはりこの映画を観たくなってしまうのでした。子供はいつの間にか親が思う以上にしっかりした大人になっている、それは少し寂しくても親の役目は果たせた証拠、お互いの新たな「誕生日」として受け止めるときなのかも、と今から心の準備をしておこう、とふと思ったのでした。(2021/03/17)

星樹館

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