生きてこそ
ALIVE 1993年 アメリカ作品
監督:フランク・マーシャル
出演:イーサン・ホーク(ナンド・パラド役)、ヴィンセント・スパーノ(アントニオ・バンビ役)、ジョシュ・ハミルトン(ロベルト・カネッサ役)、ブルース・ラムゼイ(カリトス・パリエス役)、ジョン・ハイムズ・ニュートン(ティンティン役)、クリスチャン・J・メオリ(フェデリコ・アランダ役)、デヴィッド・クリーゲル(グスタヴォ役)、ケヴィン・ブレズナハン(ロイ・ハーレイ役)、サム・ベーレンズ(ハヴィエル役)、イリアナ・ダグラス(リリアナ役)、ジャック・ノーズワージー(ボビー・フランソワ役)、ダニー・ヌッチ(ヒューゴ・ディアス役)、ジョン・マルコヴィッチ(カリトス役兼ナレーター)、デヴィッド・キュービット(フィト役)、ジョシュア・ルーカス(フェリペ役)
原作:ピアズ=ポール・リード
1972年の大学のラグビーチームの乗った飛行機アンデス山中墜落事故の実話を映画化。雪山に墜落し、生き残ったメンバー達は死んだ仲間の肉を食べて飢えをしのぎ、発見されたという衝撃的な事件であった。そんな事件、そういえば、何となく記憶に残っている。この映画化には生存者の協力を得てのことと言う。過去の出来事になったとは言え、当事者にとっては思い出したくない思い出であろう出来事を彼らはどう受け止めたのだろうか。
何かで読んだが、インタビューを受けた彼らは「これで本当に肩の荷が下りた気がする」と言っていた。映画の冒頭の部分のナレーションで、「生きるためには人肉を食べなければならない。食べなければ死ぬのは目に見えている。生きたい。でも生きるためには……とその繰り返しだ」というような部分がある。それはまさに事実だろう。この葛藤なくして決断できることではない。そして、自分の、人の生死と共にそこにあるのは宗教だ。
主演のイーサン・ホークがこの映画に出演することに決めたときのことをインタビューで答えているが、「強い宗教に根ざしたものであり、人命への尊厳は保たれているし、生存への力として忠実に描かれている映画」だったので、出演することに何の躊躇もなかったという。彼のエージェントは心配したようだが…。
映画ではこの雪山での苦悩や葛藤しか観ることは出来ないが、だが実際に生き残った若者達を本当に苦しめたのは、俗世間に戻ってからではないかと私は感じた。「生きるか死ぬか」の苦しい選択の後にやってくるのは、普段の生活に戻ったその後の「あの選択は正しかったのか?」という疑問と後悔だろう。自分の置き場所がなくなり答えのでない悩みに苛まされる日々。誰にも相談できない、理解してもらえない苦しみ。「これで本当に肩の荷が下りた気がする」という彼らの言葉は、その全てを物語っていたのだと思う。死んだ仲間達への冥福を祈り続けてきた、そして祈り続けていく、ということでもある。
映画公開後、毎月買っていた某映画雑誌の評には、「同じシーンばかり」的な酷評が載っていたが、まあ、それはいたしかたないでしょ? ねえ。私としてはイーサン演じるナンドとジョシュ・ハミルトン演じるカネッサが、アンデスを越え助けを呼びに行く後半を考えたら、前半では人道的問題として取り上げられる人肉を食べたと言う点でのそれぞれの葛藤の心理描写、後半のアンデス越えでのアドベンチャー的要素がもう少し強くあっても良かったのかな、と思う。「映画」という観点で見れば。
それにしても実際、自分がこの状況に置かれたら、どうするであろうか? とサンデル教授の「白熱教室」みたいな問いをすると、結局その時にならなければわからないこと。彼らだってそうだったはずだ。自分が飛行機の墜落で雪山で遭難するなんて誰も考えていないのだから。ただ、思い出したのは、「グランドツアー」(1991年。アメリカ・日本製作。デビッド・トゥーヒー監督、ジェフ・ダニエルズ主演のSF映画)で主人公が言っていた台詞。
「人は死ぬまで生き続けなければならないのだ」
さて、出演者は、と言えば、イーサン・ホーク。彼が観たくて劇場まで足を運んだ、と言ってもいい。今となっては彼の初期の作品の一つとも言えるかもしれないが、デビュー作から彼を観ている私には、結構たくましい若者に成長した、って感じであった。久しぶりにドラマ「エイリアス」のレノックス役で観たときは、やっぱり「いい~男」。近年の作品は未見なので、さっさと観なければ。
カネッサ役のジョシュ・ハミルトンは、現在ドラマでも活躍中のよう。バンビ役のヴィンセント・スパーノはこの頃、日本でも結構注目されていた俳優だが、現在はどうなのかな。今注目は、「ザ・ファーム法律事務所」のドラマ版が放送中のジョシュア・ルーカス? 残念ながら、私は観ていないのだが、チェックかな。他に「ミディアム霊能者アリソン・デュボア」で刑事役を演じたデビッド・キューピットやジョン・マルコビッチも出ているが、観た当時の鑑賞ノートには何の記録もない。あまり印象に残らなかったのかもしれない。
こうした若者の群像ものは、今後の有望株若手俳優をチェックできたりして、映画そのものとは違う楽しみもあり、好きなパターンの映画。育児生活になってからの私はそれも減っていたが、また復活させたいなあ~。(2013/05/28)