JUNO/ジュノ
Juno 2007年 アメリカ作品
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:エレン・ペイジ(ジュノ役)、マイケル・セラ(ポーリー役)、ジェニファー・ガーナー(ヴァネッサ役)、ジェイソン・ベイトマン(マーク役)、J・K・シモンズ(マック役)、アリソン・ジャネイ(ブレン役)、オリヴィア・サールビー(リア役)
公開当時、なかなか話題になっていた映画だ。高校生の未婚での妊娠というのは、特段新しいテーマでもないし、現代のアメリカでは(日本でももう珍しいとは言えないのかも?)かなりの数、起きている事件かもしれない。ただ、他でも書かれていたとおり、重いテーマであるにもかかわらず、映画の内容自体は重苦しくはない。10代の母親というと私などは「金八先生」の15歳の母を思い出してしまい、泣きそうな気持ちにもなりかねないのだが、この作品にはそうした悲観や世間の冷たい視線に苦しむ主人公達という部分はおよそ見当たらない。
主人公のジュノは、周囲にとらわれず、あっけらかんとしていて、妊娠も生まれてくる子供も自分の将来も何も心配していないようにも見える。そして、学校や先生やボーイフレンド(子供の父親なのだが)の母親に自分が嫌われていることも全く意に返さない。それはまるで、ジュノが無知な自分勝手な女の子であり、作品の内容も本来は気軽に扱うべきでない「命」をいい加減に扱っているようにも見える。
でも、この作品が評価され、お馬鹿なB級映画になりさがっていないのは、このジュノ役で高い演技力を評価されたエレン・ペイジの持つ魅力や監督の力量なのか。脚本は女性が書いているとのことで、確かに登場人物の女性達の強さには感心してしまう。反対に男性陣の影が薄い感も否めない。女性達があれこれ動き回って、物事がうまくいきすぎる展開は、それも嘘くさい。そして、結局、最後に頼りになるのは男じゃない、と言いたくなるところだが、今はそれはちょっと横に置いておくことにしよう。
ジュノは一見、我が儘な女の子に見えるが、3歳の時に両親が離婚して父に引き取られ、後に父親が再婚して二人に子供も生まれ、現在は4人家族だ。父、継母、異母姉妹と住んでいる。両親の離婚に傷ついていることも物語が進むにつれ、わかってくるし、妊娠なんてたいしたことない、と装っているように見えても悩んでいることも伝わってくる。
この映画は、その彼女が今回のこの事件で、生まれる子供を引き取りたいというひと組の夫妻と知り合ったことで見えてきた自分の周りの現実と自分自身、そして成長を描いている。
自分の両親、自分とボーイフレンドのポーリー、そして養子縁組を希望する若夫婦のヴァネッサとマイク。3組3様の様子やこの件を通して得た結果が、それぞれに興味深い。
ブレンと再婚した父親はとても幸せだと言う。ブレンも何となく家族になりきれていなかった感じを持ちつつも最後にはこの一家の一員になれた、と感じさせるシーンもある。ヴァネッサとマイクは高級住宅街の豪華な家に住み、子供以外はすべてが揃っているように見えるが実はすれ違いを感じている。大人になりきれていないマイクは現実的なヴァネッサとやっていく気は既にない。最後に二人は離婚するが、ヴァネッサはジュノの子供を引き取る決心をする。ジュノとポーリーはぎこちない関係であったが、今度こそ本当のカップルになれる。
映画の中では、あえて母性とか子供の人権とかは取り上げていない。あくまでジュノの成長に焦点を絞っている。それがこの映画の成功の秘訣ではないかとも私は思う。母性も人権も、家族とは何かという問題も真剣に答えを出そうとすれば、当然2時間の映画の枠では描ききれないし、それ以上に一つの答えなんて出せるはずもない。だから、映画を観ての感想として、参考にしたいなあと思う点は、ジュノとその親友リアの態度。
周囲の目なんて気にせず(リアは美人でチアガールで人気者のようだが、ジュノの親友。彼女の味方)、自分の信じる道を突き進む。勝手だと言うよりも、「自分」を持っている。高校生でなかなかこうはなれない。大人でさえ、こうはいかないんだから。逆に大人になると出来ないものなのか……。
さて、今回のこの映画の私の注目は、エレン・ペイジとジェニファー・ガーナー。二人ともドラマでの活躍で気になっていた女優だ。エレンは「リ・ジェネシス」で主人公の天才科学者デビッドの生意気な一人娘を演じていた。ジェニファーはご存じ「エイリアス」のシドニー役。二人ともドラマの役とはもちろん違っていたが、やはり気になる女優であることにかわりはなかった。そして、監督のジェイソン・ライトマン。お父さんはあのアイヴァン・ライトマン! この後に撮った「マイレージ・マイライフ」も当たったことで今後一気に注目かなあ、と私も気になる監督の一人だ。活躍を期待したい。(2011/04/26)