15時17分、パリ行き

THE 15:17 TO PARIS (2018年アメリカ作品)
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンソニー・サドラー( 本人役)、アレク・スカラトス(本人役)、スペンサー・ストーン(本人役)、ジェナ・フィッシャー(アレクの母役)、ジュディ・グリア(スペンサーの母役)、ポール=ミケル・ウィリアムズ(少年時代のアンソニー役)、ブライス・ガイザー(少年時代のアレク役)、ウィリアム・ジェニングズ (少年時代のスペンサー役)


 今回はこの映画のムビチケが当選したので、久しぶりに試写会ではないものの早々に観ることが出来た。イーストウッドは好きな監督。というよりも、彼がマカロニウェスタンをやっていた時もその後もずっと好きな俳優の一人であった。監督作品でもある「許されざる者」を観て以来、監督としての彼の方が好きかも、とさえ思う。まあ、実際は全部の監督作を観ているわけではないのだが、今回はこの作品を久々に劇場で観ることができた。
 話題は、パリ行きの列車で実際に起こったテロ事件を扱っていること、その大惨事になったかもしれない事件を阻止した乗客であったアメリカ人青年たち本人が本人役で登場していること、事件に巻き込まれた乗客役の多くを本人が演じていることの3点。
 実際に起こったテロが題材ではあるが、テロを阻止した男の活躍そのものに重きを置いている作品ではない。なので、事件の場面よりもそこに行き着くまでの主人公たちの人生を描いているシーンがほとんどだ。悪を懲らしめるアクション映画や惨事の悲惨なシーンばかりが繰り返されて切なくなるような作品と思うと肩すかしを食らったような気持ちになるかもしれない。事件直前の若者たちのヨーロッパ旅行のシーンも続き、ロードムービー的でもある(個人的にはそれはそれでよかったなあと思う)。
 きっと賛否両論の結果であったろうと思うのだが、素人の私なんて単純に主人公の幼馴染の若者3人を本人が演じているから、その距離感とか親しさとかの何気ない様子が実に自然で、また演技であって演技でないとも言える雰囲気が身近な存在(本当は大スターとかというかけ離れた存在ではなく)に思えて結構よかったかも、と思う。
 事件を阻止したのはヒーロー的な軍人や警察官やテロの専門家ではなく、隣にいる普通の若者、そこを監督は強調したかったのではないか。それは隣の人かもしれないし、自分かもしれない。
 主人公のスペンサーは、何度も「人の役に立ちたい」と口にする。学校では教師に「病気」と言われ落ちこぼれ、頑張って入隊した軍隊でも寝坊で遅刻したりエリート軍人とは程遠い。そんな毎日の中でもおそらくずっと心の中にあったのであろう「人の役に立ちたい」と思う心。それこそがすべての原動力かもしれない。誰もが誰かに必要とされたい。口にして言われなくても「自分は誰かの役に立っている」と思いたい。真面目に生きるためには必要なことだ。
2018/03/08